50歳でスタートした初めてのバックパッカー世界一周。最初の旅先、スリランカでの一人旅は中央部の山間地、エッラに入った。ツアーから解放されて初めて一人で行った場所だった。
駅から宿までの道のり
約7時間に及ぶ鉄道の旅を終え、ようやくエッラ駅に着いた。一つのホームに小さな駅舎があるだけの、ローカルな駅だ。人混みでごった返す中、僕は駅で何がしかの情報をゲットしようと思い、周りをキョロキョロした。しかし時刻表的なもの以外、目ぼしい情報は見当たらない。日本の駅みたいに、観光案内のチラシやパンフレットが揃っているわけではないようだ。
代わりに目立ったのが、宿やトゥクトゥク(三輪バイク型のタクシー)の客引きだった。駅の出口付近に数十人が押し寄せ、出てくる旅行者を捕まえて「宿は決まってるか?」などと声をかけてくる。客の側は、臨めば条件を確認し、自分の条件に合う宿を選んで送迎してもらうことになる。今の日本ではあまり見かけない光景だ。客引きというと、ぼったくりの風俗店を連想し、「信用できない。」「着いて行ってはいけない」と条件反射的に警戒してしまうが、こちらでは普通のことなのだろう。
このとき僕は事前にネットで宿を予約してあった。Booking.com、Hotels.com、Hostelworld、Airbnbといったスマホアプリで簡単に宿情報を調べ、予約することができるから便利だ。その後も僕はそれら宿泊予約アプリによくお世話になった。
宿までは駅から歩いて20分くらいで行けそうだった。せっかくだから歩いて行くことにした。初めての街をぷらぷら歩くのは気分のいいものだ。駅前の下り坂を少し歩いて行くと、Ella Rordというメインストリートのようなところへ出た。メインストリートと言っても古びた道路に面して小さな宿やレストランが立ち並んでいる田舎道だ。ちょうどお腹も空いたし、ちょっと落ち着いてこの街の雰囲気を味わいたくなったので、適当なレストラン(確かFreedom Cafeだったかな)に入って、スリランカカレーを食べた。めちゃくちゃ美味しかったし、店員もフレンドリーで感じが良かったので、滞在中何度か通った。
エッラの宿で
Ella Rordから脇道に入り、森に囲まれた道を少し行って、坂を上がったところに目的の宿、Manaram Guest Innがあった。平家建てで、黄色い壁の小さな宿だ。声をかけると、色黒でがっしりしたおじいさんが出てきた。口数が少なく、一見気難しいようにも見えたので少し緊張した。しかし、部屋の説明を受け、シャワーの使い方なんかをあれこれ質問しているうちに彼の親切さがじんわりと伝わってきた。スリランカの男性について言えば、最初から愛想を振りまく人より、むしろ無愛想でとっつきにくそうな人の方が信用できる感じがした。
チェックインを終えた後は、宿のロビーで紅茶を飲んで一休み。そのとき30代くらいの欧米人男性がスクーターで宿に帰ってきた。どうやら泊まっているのは僕とこの男性の二人だけのようだった。彼と挨拶を交わし、少し話をした。彼は翌朝リトル・アダムス・ピークというところへ朝日を見に行くという。感じのいい奴だったし、僕はまったくのノープランで来ていたので、ちょうどいいと思い、一緒に行くことにした。彼がレンタルしているスクーターに乗せて行ってくれるという。記念すべき初めての旅の道連れ、旅の友達ができた。そのときの話はまた後日。
宿のことについて先に紹介しておくと、タイプはバス・トイレ付きの質素な個室。朝食もついていた。この朝食タイムがとても良かった。朝食の場所は、庭のダイニングテーブル。そこは朝の太陽の光と南国の美しい植物に囲まれ、心地よい風が吹き抜ける楽園。料理自体は、食パン、ロールしたパンケーキ、卵焼き、フルーツに紅茶といった、ごく質素なものだったが、一つ一つの美味しさが体に染み渡るようだったのはなぜだろう。
宿は質素でも作りは比較的しっかりしていた。というか、それまで、しっかりしていないところが結構多かったのだ。特に水回り。いくつかのホテルは、洗面台や水栓、蛇口なんかがしっかり固定されておらず、グラグラ動く状態だったし、あるホテルは、出るはずのお湯がなかなか出ず、水シャワーで済ませるしかなかった。まあ、低料金の宿を選んでいるせいもあるが、日本だったらいくら低料金でもこれほどのことはない。「未完成なのでは?」と思うような設備に時々出会った。どちらがいいとか悪いとかいうことではなく、「最低限の品質」「おもてなしの心」といったものに対する考え方が根本的に違うような気がした。
ともかく、このエッラの宿は居心地が良かった。確か2泊目の夕暮れ時、庭に面した壁際に置かれた椅子に座ってぼんやりしていたら、宿のおじいさんも隣の椅子に座ったので、しばらく二人でぼんやり庭を眺めるていた。ポツリポツリと会話をしながら、柔らかな日差しに煌めく庭の植物たちを見ている時間が、なんだかとても豊かだった。
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